サファイアの檻に閉じ込めて

夢を見ている。

入学式の日。講堂へ向かう道中で、声をかけてくれたあの人。
大型連休に大勢で連れ立って出かけたあの場所は、どこだっけ。
クリスマスパーティ、学園で初めての雪を眺めたとき隣にいたのは誰だったろう。

「―――い、おい、特待生?」

はっとして我に返ると、理知的な美しい瞳がこちらを覗き込んでいる。コスモ先輩演じる勇者と夜来先輩演じる魔王との掛け合いに割り込んできたその人、その声。

『勇者も魔王も俺が魔法で全て消してやろう。対価は、キミ。時間が進まない世界で一緒に暮らそう』

青柳先輩の台詞を聞いた途端、不思議な白昼夢に囚われたのだった。
不思議な感覚。私はこの学園で初めての夏を迎えたばかりなのに、どうしてか学園のみんなと過ごしたクリスマスにお正月、そして、かの伝説の祭典が復活した日々を思い出していた。合点がいかないのは、たとえば夜空から舞い落ちる雪を一緒に眺めた相手……あの人?それとも彼だっけ?記憶のパズルは、ピースが足りないどころか同じ場所に何枚もが折り重なっているようだ。残念なことに、それらは手繰り寄せようとするほどに遠ざかり、あっという間に薄れていってしまったけれど。

「特待生、どうした?立ちくらみでも起こしたのか?」

青柳先輩の大きな手が気遣わしげに伸びて、私の前髪をかき分け額に触れる。彼の杞憂を晴らすように、私は胸を張り高らかに宣言した。

「私は……いつでも青柳先輩ルート一択です!」

先輩の声が、先輩のことが大好きだから。額にあった手がかくんと落ちた。呆けたように口を開けた青柳先輩の頬や耳が、見る見る真っ赤に染まっていく。そんな私たちを見て、他のメンバーたちは「やれやれまたか」と言いたげな苦笑を浮かべた。

「えーっ。特待生ちゃん、それアリ?」
「おやおや、帝に美味しいところを持って行かれましたね」
「じゃあ俺は勇者コスモさんルートにします!」
「おい、もっと魔王もうやまおうじゃないか!」

仮に時が止まっても、同じ時間を何度巡り巡っても構わない。
願わくば私は光になって、あなたという宝石の内で屈折し反射してきらめきたい。
サファイアの檻に私を封じたなら、どうか閉じ込めて逃がさないで。

『時間が進まない世界で一緒に暮らそう、何回でも』

また何度でも、この日を迎えよう。

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